今回は源平藤橘に称される橘氏の代表紋であり、現在では使用家の多い十大紋のひとつである橘紋のキャラクター誕生秘話をお伝えいたします。
橘は日本に古くから自生していた日本固有の柑橘類ですが、『古事記』には海の彼方にあるとされた異世界より、不老不死の霊薬・非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)が持ち帰られ、それが「橘」であると記載されています。
では、その香りはどのようなものでしょうか。
そこで少し調べたところ、奈良県の大和郡山市で活動する「なら橘プロジェクト」に出会うことができました。
このプロジェクトは、古くから奈良に自生してきた大和橘に着目し、地域活性や交流、さらには文化・芸術・産業に寄与するために有志が起ち上げたものです。彼らは、その活動の一環として、2011年11月から橘の植樹をはじめ、これまでに800本の橘を大和郡山市に植えているとのことでした。
そのような折、偶然、町歩きガイドの仕事で大和郡山市を訪れる機会が巡ってきました。不思議なこともあるな、と感じつつも、そのときに初めて橘の香を知りました。
その香りはとても華やかで、柑橘系の爽やかさと同時に、大変優しく、ほのかに甘さを感じさせる心地よいもので、古代の人々がこの香りに魅せられ、時を忘れてしまうほどの思いを込めて「非時香菓」の名を付けたのではないかと、思わず感じたほどの衝撃でした。
そして今回の擬人化にあたり、一番の課題はこのイメージをどのように表現すれば、より橘紋が魅力的な存在になれるかということでした。
まず橘紋は可愛らしい雰囲気や印象を持つ紋であり、関西を中心とする西日本で、女性だけがつける女紋としてもよく用いられていますので、キャラクターの性別は女性にいたしました。
そして十大紋としても名高い紋であり、使用する家も多い紋であるため、一目見て橘であることを伝えるために、橘紋のフォルムを表現してもらうことを絵師の、みはゆーのさんにお願いさせていただきました。
香りのイメージをお伝えするのは難しく、みはゆーのさんには何度も何度も修正をしていただきました。その結果、ただ美しいだけのキャラクターではなく、橘紋の可愛らしいイメージをしっかりと想起させ、さらに橘紋のフォルム、実物の橘が持つ良い香りまでも連想させるキャラクターを生み出すことができたと思っております。
古代の人々が魅了された橘の香りをイラストを通して皆様に届けることができれば幸いです。
ちなみに橘紋と、非常に形状が似ている家紋に茶の実紋があります。茶の実紋は橘紋が変化して生まれた紋であるともいわれています。
そのため、この関係性をキャラクターにも生かし、橘を姉、茶の実を妹とすることにし、橘紋と茶の実紋は同じ絵師の「みはゆーの」さんに描いて頂きました。
茶の実紋はまだ掲載されていませんが、UPされた際には、ぜひそのキャラクターにも注目してみてください。
家紋研究家・森本勇矢