今回は紋にまつわるお話を少しご紹介します。
家紋全盛期といっても過言ではない江戸時代には、さまざまな紋が生まれました。デザインが美しい紋や、世の中の流行、いわゆる洒落がきいた紋など、家紋ではない「紋」も多数生まれ、紋の文化が非常に発展していきます。
その中で紋に関する川柳も多数詠まれており、それが現代にも伝わっています。
たとえば有名な一句がこちらです。
「桶と花 提げて定紋 見てあるき」(1764年)
作者は不明ですが、桶と花を持ち、墓参りを装って、墓に刻まれた定紋(家紋)を見てまわって楽しんでいる、という内容です。
家紋を色々と見てまわりたいけど、墓地を一人で歩き回るのは、他の人の目もあるため、桶と花を持つという後ろめたさが感じられる面白い川柳です。
ちなみに川柳は名のある人物だけでなく、町民の間にも文化として浸透していました。俳句のように季語を使うなどの制約が少ないからといわれています。
いずれにしてもこの川柳から分かるのは、江戸時代の頃には家紋を見て楽しむという文化が存在していたということです。
また現代でもお墓に家紋を入れることは多いのですが、この習慣が生まれたのは江戸時代の初期といわれています。その家が、その家たる由縁を子孫に伝えていくという役割があると考えられます。
お墓参りに行く際は、祖先に思いを馳せ、家紋に込められた思いを知るだけでなく、ちょっと他の家紋を見て回って、新たな発見を楽しむのも面白いかもしれませんね。
家紋研究家・森本勇矢