今回は家紋が担う役割について、お伝えします。
まず日本の紋章の呼称について、簡単に紹介いたします。
紋章の呼称
- 家紋:家の紋。家の紋章。家を代表する紋。定紋・本紋などの名称もある。
- 替紋:家紋の一つ。複数の家紋を所有する場合は、代表的な紋を「家紋」「定紋」「本紋」と呼び、その他の紋と区別するために使用される。裏紋・副紋・控え紋などの名称もある。
- 私紋:個人を示す紋。個紋とも呼ばれる。
- 寺紋:寺が使う紋。宗派を示す紋を宗紋と呼ぶ。
- 神紋:神社が使う紋。社紋とも呼ばれる。主に祀る神を示す紋。
- 屋号:屋号の印。商家が使う紋で、現代ではロゴとも呼ばれる。
さて、上述した通り、家紋とは、「家」の「紋」のことを指します。海外の紋章のように個人を象徴するものではなく、家を象徴する紋章で、これは日本における「家」という概念が形になったものといえます。
では、「家」という概念はどのようなものでしょうか。
もちろん建築物としての家ではありません。祖父母、親子、兄弟、孫……このような血縁に基づく関係がパッと浮かぶと思いますが、その根本にはもっと原始的な強いものがあると考えています。
それは人間という生物の本能、子孫を残すということです。
科学が発展し、食料や医療をはじめ、多くの命に関わる問題が日々改善されている現代を生きる私たちには少し実感しにくいかもしれませんが、ほんの少し前の時代までは、命は簡単に消えてしまう儚いものでした。
今では「強い雨だったね」、というレベルの雨でも、川が決壊し、田畑が荒れ、食糧難になり、同時に汚水による病気の蔓延などが起こり、命は簡単に失われました。
そこで昔の人はどうすれば生き残れるか、どうすれば災害や病気などから自分や家族を守れるか、ということを必死に考えたのでしょう。
その結果として生まれたのが、恵みと災害をもたらす自然に対する崇拝であり、自然の豊かさと脅威をわかりやすく伝えるために生まれた、神への信仰ではないかと考えています。
そして、このような自然に対する崇拝や神への信仰を、「形」として表すものが生まれます。神具や祭具などが代表的なものです。加えて徐々にその「形」自体にも、命の安全を願う思いが生まれ、「守護」を求めたと考えられます。
現代でも「家内安全」「交通安全」「安産祈願」などのお守りが必要とされるのは、そこに人間としての本能、生存への欲求や身近な人を守りたい、守ってほしいという願いがあるからではないでしょうか。
ここで本題に戻りますが、「家紋=家の紋」にも同様の願いが込められています。
「家紋」に採用されているモチーフには、必ずそれぞれの意義や意味があり、それらを吟味し、本質を貫く共通のワードを探すと、「守る」という願いに辿りつきます。
子孫の命を守りたい、祖先の名誉を守りたい、神仏の信仰を守りたい、子孫の幸運を守りたい……家紋に採用されたモチーフにより、何を「守る」か、ということは異なりますが、基本として、各家々が守りたいものが家紋には込められています。
つまりシンプルに言い換えると、家紋とは「家を守る紋」であるということです。
逆に言えば、「綺麗だから紋にした」「洒落がきいているから紋にした」というような、守る意味を持たない紋は、家紋ではない可能性があります。もちろん、その意味が現代まで伝わっていない、もしくは消失してしまっているというケースもありますので、その場合は専門家に相談することをお勧めします。
また紋に関わる専門家、たとえば呉服屋さんなどが、必ず持っている本に「紋帖」があります。これはあくまでも紋の図案が掲載されているものであり、「家紋帳」ではありません。「紋帖」に掲載されている紋の中に、「家紋」として採用されている図案が多いので使用されていますが、紋帖に掲載されているから家紋ということではないので、注意してください。
少し長く記載いたしましたが、家紋とは「家を守る紋」であることを知り、皆様の子どもやお孫さんにも、その意味や意義を伝え、家紋を後世に伝えていく一助になれば幸いです。
家紋研究家・森本勇矢